このページでは筑波大学附属視覚特別支援学校長より、このWebをご覧になった方へご挨拶申し上げます。
校長室から
「読むこと、書くこと」をひらいた人― 石川倉次先生と、点字が支える学び ―
長かった夏休みを終え、学校には子供たちの元気な声が戻ってきました。2学期が始まり、11月1日に予定している創立150周年記念行事も、いよいよ近づいてきました。
創立150周年を迎える本年度、「校長室より」では、本校のこれまでの歩みを振り返りながら、現在の教育、そしてこれからの本校について考えてきました。
今回は、本校の歴史を語る上で欠かすことのできない「点字」について、少し考えてみたいと思います。
本校の歴史を振り返ると、石川倉次先生の存在に触れないわけにはいきません。石川倉次先生は、本校の国語科の教員として教育に携わるとともに、視覚障害のある人が「読むこと、書くこと」を自らの力で行うための文字について研究を重ねました。明治23年(1890年)には石川倉次先生が6点式のカナ点字を考案し、その案が点字撰定会で採用されるなど、日本の点字の発展に大きな役割を果たしました。今日、石川先生は「点字の父」とも称されています。
かつて、視覚障害のある人が文字を読み、書くことは、決して当たり前のことではありませんでした。「どうすれば自分で読むことができるのか。」「どうすれば自分の考えを文字にして伝えることができるのか。」こうした問いに向き合い、学ぶための方法を切り拓いてきた先人たちの努力がありました。
では、現在の私たちにとって、点字とはどのようなものなのでしょうか。
点字は、情報を得るための「手段」ではありません。点字を読むことで、文章を自分のペースで読み返すことができます。言葉のつながりや文の構造を確かめることもできます。そして、自分の考えを点字で書き、それを読み返し、書き直しながら、考えを深めていくことができます。
つまり点字は、「読む」「書く」という言語活動を通して、自分で考え、理解し、表現するための基盤でもあるのです。これは、点字で学習する児童生徒にとって、とても大切なことだと思います。
現在では、音声読み上げによって文章を聞いたり、タブレット端末でデジタル教材を利用したりすることもできます。ICTの発展によって、点字で学習する児童生徒にとっても情報にアクセスする方法は、以前とは比べものにならないほど広がりました。
だからこそ、私たちは改めて「点字で学ぶこと」の意味を考える必要があるのではないでしょうか。
音声は、情報を得る上で大きな力を発揮します。一方、点字は、文字そのものを触覚で捉え、自分の手で確認しながら読み書きすることができます。
例えば、句読点や文の構造、語句のまとまりなど、文字を触って確かめることによって理解が深まる学習があります。また、書いたものを自分で読み返し、間違いに気付き、書き直すという経験も、学びを深める上で大きな意味をもっています。「書くこと」は、誰かに伝えるためだけのものではありません。自分の考えを整理するために書く。書いたものを読み返して、考え直す。そして、もう一度書く。こうした「書くことと思考の往還」を可能にする文字として、点字は大きな役割を果たしています。
本校では、幼児期から高等部、専攻科まで、それぞれの発達の段階や学習内容に応じて点字を学び、点字を使って学習しています。
点字そのものを学ぶことから始まり、やがて点字を「学ぶための文字」として使い、さらに自分の考えを表現し、社会とつながるための文字として活用していく。
この積み重ねは、150年にわたり本校が大切にしてきた教育の一つです。
そして、石川倉次先生をはじめ、先人たちが切り拓いてきた「読むこと、書くこと」への道。その先に、今の私たちの教育があります。
その道の先には、これから本校で学ぶ子供たちの未来があります。150周年という節目を迎える今、私たちもまた、これまで受け継いできたものを大切にしながら、次の時代の「学びの道」を切り拓いていきたいと思います。
令和8年9月10日 筑波大学附属視覚特別支援学校 校長 森田 浩司
校長室から バックナンバー
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2025年度
2025年 4月4日「着任の挨拶・学校教育の方向性について・学校としての決意」2025年 4月18日「新しい生活のスタートで学んだ “生きる力” 〜地域とともに、生徒たちとともに〜」
2025年 5月7日「地域に支えられて~放課後等デイサービス事業所との連携~」
2025年 5月23日「理学療法科の授業に協力して:社会に生きる力を育む実践の場」
2025年 6月2日「地元・大阪で輝いたその一蹴——ブラインドサッカー国際大会 優勝の報告」
2025年 6月23日「沖縄慰霊の日に寄せて ~平和を考える給食時間~」
2025年 7月7日「理学療法士国家試験における合理的配慮について ~視覚障害のある受験生のために~」
2025年 7月25日「足元の自然に耳をすませて~飯盛山登山に代わる自然観察から~」
2025年 8月5日「自立へつながるキャンパス体験~「支援を受ける側」から「支援を活かす側」へ~」
2025年 8月21日「視覚障害教育への熱きまなざし ~ それぞれの夏季研修の始まり ~」
2025年 9月2日「「準備は裏切らない!」——全国大会 優勝、そして次の挑戦へ!」
2025年 9月25日「音楽に込めた想い ―音楽科3年生の挑戦」
2025年 10月7日「未来の教師たちとともに ~自立活動の重みを伝えて~」
2025年 10月29日「あふれる二人羽織 ~視覚障害教育の基本~」
2025年 11月4日「からだを診る、こころにふれる ―ALSの方々との出会いから学ぶ―」
2025年 11月27日「「ちいさな力、大きながんばり!」みんなのうんどうかい」
2025年 12月9日「31人の世界が並んだ日 ~ 一日だけの作品展 ~」
2025年 12月22日「未来の理療師~養成施設との連携が拓く理療教育~」
2026年 1月7日「新年にあたってのご挨拶 ―150周年の節目の年―」
2026年 1月30日「挑戦の先に広がる学び ― トビタテ!留学JAPANを通して―」
2026年 2月12日「学校を支える温かなまなざし- 触感に込められた思いやり」
2026年 2月27日「視覚障害教育の現在地― 全国からの120名とともに考えた、授業と協議のかたち ―」
2026年 3月17日「音で感じる、料理の時間―寄宿舎「サウンドフルクッキング」の取組―」
2026年 3月25日「新たな門出 ― 魂のこもった卒業演奏とともに ―」
2026年 4月 1日「学校教育の方向性、創立150周年を迎えて、学校としての決意」
2026年 4月20日「創立150周年の年のはじまりに ― 歴史の中にいる私たち ―」
2026年 5月13日「研修から見えてきた盲学校の現状 ―関東地区盲学校ルール研を開催してー」
2026年 5月25日「本校の創立期を振り返る ― はじまり ―」
2026年 6月11日「人を支える学びの、その先」
2026年 6月22日「受け継がれてきた専門性 ― 視覚障害教育の工夫と積み重ね ―」
2026年 7月9日「人を育て、人に支えられてきた学校― 150年の歩みを支えてきた「つながり」―」
2026年 7月27日「全国につながる支援の輪 ― センターオブセンターとしての役割とは―」
2026年 8月6日「変化の中で進化してきた教育 ― 技術革新とともに歩む ー」
2026年 8月24日「「限界をつくらない場所」― 全国の仲間と学んだ山形大会 ―」

