このページでは筑波大学附属視覚特別支援学校長より、このWebをご覧になった方へご挨拶申し上げます。
校長室から
新しい生活のスタートで学んだ “生きる力” 〜地域とともに、生徒たちとともに〜
新年度が始まって間もなく、寄宿舎で視覚障害のある生徒70名を対象とした避難訓練を実施しました。今回の訓練は、地震が発生し、続いて火災が起きるという夜間の想定。協力してくださったのは、地域の町内会長さんと防災委員の担当者さまです。夜間を想定した中で、地域と学校が一体となり、生徒たちの“本当の備え”について共に考える機会となりました。
生徒たちにとっては、舎室が変わった新しい生活はさらに慎重な行動が求められる環境になります。避難開始の非常ベルが鳴ると、生徒たちは職員の声を頼りに、介添えや白杖を使いながら冷静に移動を始めました。廊下の壁や手すりを確認しながら、互いの存在を意識し、足音や気配から周囲の状況を感じ取っている姿は、日頃の生活の積み重ねと、防災への真剣な意識を感じさせるものでした。
訓練後の振り返りでは、「非常音が鳴り、緊張感があって避難訓練できた。」 「地震で、壊れた箇所から火災があり、通行できない廊下があって、移動が難しかった」「先輩が、一緒に避難をしてくれて分かり易かった。」といった感想もあり、生徒たちが“命を守る力”を体験を通して確実に身につけていることを実感しました。
この訓練の校長講評として、「視覚障害者のための災害避難について」基本的な事項3つをお話いたしました。
1つ目は、避難経路の事前確認、避難時は白杖を携帯する
2つ目は、声掛けして、ともに行動する
3つ目は、避難後の避難生活にそなえて、自分に必要なサポートを周囲の人に自分で伝えるようにしておく
視覚障害がある人にとって、災害時には「音」など、自分にとって頼れる感覚をどう使い、どう周囲と連携するかが重要になります。特に注目すべきは、「自分の障害についてどう伝えるか」「支援を受けやすくするためにどんな準備ができるか」といった点を、生徒自身が考えるきっかけになってくれたらと思っています。
防災とは、誰かが誰かを守るものではなく、「互いに支え合う力」の積み重ねだと私は思います。その意味で、今回の訓練は、生徒、教職員、地域の方々すべてにとって学び多いものとなりました。
視覚に障害があっても、備えがあれば命を守れる。地域とつながれば、不安を安心に変える力になる。そう信じて、今後も“防災教育”を日常に根づかせ、誰もが安心して暮らせる社会を目指してまいります。
令和7年4月18日 筑波大学附属視覚特別支援学校 校長 森田 浩司