筑波大学附属視覚特別支援学校のWEB

盲学校のかかえている課題と問題点

 指導要領が改訂されて、情報処理に関する内容がいくつかの教科に跨るようになった。。高等部では「数学」で、中学では「数学」「技術」で、パソコンに関する内容が含まれている。また、養護・訓練ではコミュニケーション指導の一環としてパソコン指導に当たってきた経緯がある。どの教科で、何を、どの様な順番で、どのレベルまで教えるのかが重要な課題である。本校中学部では養護・訓練の中で入力と文書処理に重点を置いて、高等部の場合は学校独自でおくその他の科目として「情報処理技術」を設けたのでその中で、専攻科では養護・訓練と「理療情報処理」、「理学療法情報処理」の中で指導することにしている。指導時間は決まっても、視覚障害を保障する機器の指導が不可欠であるから、一貫性があって、しかも系統的な指導の必要性がある。従って、情報処理機器の選定から始まり、指導内容、指導法等の研究は益々重要になる。

 一方、受講生のパソコンやワープロに関する知識や技能は個人の興味や過去に受けた指導の違いから、著しい差があり、また、視覚障害の程度が違うので、一斉授業は行いにくい状況にある。本校では、(1)キー入力を中心とした基礎指導(2)ワープロによる文書作成、(3)データベースなど各種アプリケーションソフトの指導、(4)基本ソフト(MS‐DOS)の指導、(5)C原語によるプログラム指導の5コースを設け、養護・訓練、「情報処理」では生徒のレベルや必要性を考慮してコースを決めている。しかし、今後はパソコン通信やインターネットなどの通信、WINDOWSや他の基本ソフト、文字読みとり装置など視覚障害を補償する機器の指導もあわせて行う必要がでてくると思われる。

 現在、情報処理を指導していて強く感じる問題点、課題を列挙すると以下のようになる。

  1. 先ず、情報処理を担当する指導者の資質が問われ、指導者の研修が必須である。種々の研究会で情報処理に関する発表がされ、話題に取り上げられているが、よほど精通していないと断片的で身につかない。指導者の個人研修に加えて、「盲学校における情報処理教育」に関する継続的な系統的な研修会が必要ではないか。

  2. 次に、機器の購入をどの様に進めて、盲学校にふさわしい設備にしていくかが課題である。機器が日々変化していること、機器が高価であること、また、予算が限られていることなどから理想的な設備を常に維持することは不可能に近い。長期的なヴィジョンを立て、全校的な計画のもとに導入することが極めて重要であるといえる。

  3. パソコンや補助機器、ソフトなどの設備も全盲者、弱視者の特性にあったものを揃えなければ有効な指導はできない。また、授業で使う場合は一人1台が必要であり、教室の確保も不可欠である。本校の場合はようやく予算がつき、通産省の100校プロジェクトに選ばれ、「みこころ会」の寄贈があったりして、今は新しい機器が入り、パソコン教室も確保できているが、日進月歩のパソコンの世界、何時時代遅れになるか誰にも予想できない。継続的な投資が必要であることは誰もが承知しているが本校は予算がない。

  4. 点字使用者の場合は音声を併用しなけれはならないので、どの社のパソコンでもよいという訳ではなかった。また、拡張メモリがないと動かなかったし、動く場合でもディスクベースではディスクの入れ替えが多くなって不便であり、ハードディスクが必要であった。今のパソコンはメモリもハードディスクもついているが、WINDOWSでは音声ソフトが動かない。誰かに頼むか、自分でBドライブに組むしかない現状に変わった。点字入力もできなくなったし、拡大機器も使えなくなった。

  5. 将来、個人がパソコンを購入して使用する場合、MS-DOSの知識がないと自分でインストールしたり、環境設定ができない。単に、ワープロや他のアプリケーションソフトを指導するだけでは十分とは言えない。従って、パソコンに関する知識や基本ソフト(MS‐DOS)の知識まではカリキュラムに入れる必要がある。

  6. 健常者に便利な画面選択のユーティリティソフトは音声と画面が一致しない場合が多く使えない。どうしても対話形式の選択をしたい場合は、バッチファイルをもとに実行ファイルを独自に作るしかない。また、最近マウス対応ソフトも増えているが、これはかなり高度な知識と技術がないと視覚障害者が使えるようにすることは不可能である。更に、設計変更によりディップスイッチの映像化など視覚障害者には使いにくい方向になっていく面もあるので注意が必要である。

  7. 弱視者の場合は文字を拡大する必要があるが、大型CRTや「PC-WIDE」のようにハード的に、または、「ジョインズーム」「AOK」などソフトによって拡大が可能になっており、その使用に熟達すれば特別不便はなくなっている。ただ、マウス対応ソフトは通常画面で使用する必要があり、見にくいので使いにくい。

  8. 機器やソフトは絶えず進歩しているので、既存の機器やソフトがそのまま作動するか常に確認する必要がある。例えば、PC9801FAと点字エディター「BASE」は「BASE」の旧バージョンは正常に動作したが新バージョンは誤作動した。しかし、すぐに正常に作動する新バージョンが出された。

  9. 「AOK点字ワープロ」とハードウエアーEMSはPC9801シリーズで並存できるが、その中のEX2とは並存できない。EX2のサウンドボードを切り放すと「AOK」が作動しなくなるからである。但し、EMSをプロテクトモードに設定し、サウンドボードを切り放し、ディスクBASICのモードを設定し直すとEX2でも使えることが分かった。このように、バージョンアップによって使えなくなることや機種によって作動しなくなることもあるので、指導者は動作確認を常に行うようにして、情報を持たなければならない。

  10. 複数のソフトを同時に動かすので、キー割当のダブリが生じることもある。例えば、グラフィックキーは音声ソフト「VDM」が優先して使用するので、ワープロソフト「一太郎」におけるグラフィックキーによる部首変換ができない。また、デバイス型点字入力ソフト「BRAILLE.SYS」を使用すると、「CAPS」キーがソフトのスイッチになっているので、シフトロックとして使えない。例えば、点字エディター「BASE」は独自に点字入力と音声化を持っているが、点字エディターに入り込むまではフルキー入力で音声をサポートしない。ハードディスクから「BASE」を立ちあげたり、最初から点字入力と音声化するために、「VDM」と「BRALLE.SYS」を併用する場合は、音声やキーのダブリが生じ、誤作動を起こすことがある。点字エディターに入り込んだとき、「VDM」「BRAILLE.SYS」のスイッチをオフにする必要が出てくる。このように、複数のソフトを同時に使用する場合は通常の使用法が制限される場合もあるので、どのように動作するかを確認する必要が出てくる。

  11. 視覚障害者の多くがワープロとして使っている「AOK」のOSはBASICであり、他の多くはMS-DOSソフトであり、ファイルの互換性の問題があったが、「AOK」がMS-DOSファイルに保存できるようになって解決された。しかし、拡張子をつけないと呼び出せないソフトが多いので拡張子をつける習慣を指導する必要がある。拡張子のないファイルはMS-DOS上でRENもしくはCOPYコマンドで拡張子をつけなければならない。

  12. 視覚障害者がパソコンを使用する場合には複数の機器やソフトを同時に使用しているので、それぞれのマニュアルだけでは全く不十分である。使用法を中心としたテキストを早急に作成する必要がある。

  13. そして、盲学校は情報処理のセンターとして、視覚障害者のための情報処理機器やソフト、それに関する情報を蓄え、在校生だけでなく、卒業生へも指導していかなければならない。本校では赤池を中心に卒業生のためのパソコン講座を開いたり、卒業生のパソコン購入の相談やハードディスクのインストールなどのサービスを実施している。大学進学をめざす盲学校生徒は、大学に提出する資料をワープロで書くためにも、また、電子ブックなどを有効に利用するためにも、情報処理教育を受け、パソコンを十分に使いこなせるようになっておく必要がある。

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2007/04/09