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情報処理に関する授業の実際について

 情報処理に関する授業は、現在、中学部においては「養護・訓練」で、高等部は学校独自でおくその他の科目「情報処理技術」で、専攻科理療科は「養護・訓練」および「理療情報処理」で、理学療法科は「理学療法処理」で、音楽科は「養護・訓練」で指導している。

1.点字ワープロ

 点字ワープロの指導は、本校が全国に先がけて行なってきた。点字使用者が情報処理機器に接する最初の機会は、多くの場合、ワープロである。それは墨字を書くという必要性が高いからである。また、パソコン通信を利用する場合も、CD‐ROMの電子ブックを利用する場合も、ワープロ利用技術がなければ、それらを充分に活用することはできない。

 ワープロで日本語をつづる場合、どうしても点字の表記と墨字の表記の違いが問題となる。現行の点字体系は、カナ体系であるが、平仮名、片仮名の区別がなく、算用数字、漢数字の区別もない。墨字と比べて、最も大きな相違は、点字には漢字がないことである。また、そのほか、読点を利用する習慣が、点字使用者と墨字使用者とではかなり異なる。また、ページのレイアウトも異なっている。

 点字ワープロを学習し、大学に進学し、卒業して就職するに至った者もある。彼らは、盲学校におけるワープロ利用の教育を受け、大学生活において各種のリポート類をワープロで提出することができた。ワープロ誕生以前は、大学生活における墨字のリポート書きは、視力のある人に頼らざるを得なかったことを考えると、これは、非常に大きな進歩である。また、点字ワープロ技術が、障害者に狭い就職の門を開くのに、大いに役立っている。

 カリキュラムは文書作成に重点をおいているが、以下のように総合的に行っている。

  1. 視覚障害者で、高校や大学に進学した人や社会人が、現在どのようにコンピューターを利用しているかを紹介し、学習の意味を理解させる。
  2. 視覚障害者用音声化システム、ピンディスプレイシステム、画面拡大システムなど現在、実際に利用されている機種の紹介
  3. 各種応用ソフト利用のためのフルキーおよび、点字キーの理解とタイピング訓練(タイピング訓練は、その速度、正確さの向上を目指すものであるが、点字のタイピングは、各種の点字規則の習得をも含むものである。)
  4. 視覚障害者用日本語ワープロは、当時普及していたAOK点字ワープロを利用しての文書の作成、処理を指導する。
  5. 墨字の用字法、レイアウトの指導(特に点字使用者に対しては、墨字が点字と異なる助詞の「は」、「へ」、読点、漢字使用法、印刷レイアウトについて充分指導する必要がある。)
  6. CD‐ROMなどの電子化辞典などの利用法を指導する。点字辞典類、拡大文字辞典類の極めて少ない出版事情のもとでは、これら電子化辞典の利用は重要である。
  7. パソコン通信の利用に関しては、一般社会との直接的コミュニケーションができるので、特に将来に役立つ重要な分野である。(現在は、インターネット)
  8. 点訳ソフトの利用に関しては、自己の記録用、点字印刷用として、このソフト利用は重要である。そのためには、正しい点字表記法を充分、身につけさせる必要がある。

2.日本語ワープロ

 弱視者に対する日本語ワープロの指導を始めてのは点字ワープロより遅れ、ハーソナルワープロが市販されてからになった。その後のパソコン進歩、職場、学校、家庭への普及はめざましく、ワープロの履修者の数に表れている。86年7人、87年6人、88年11人であったのが、89年には37人に急増し、今では点字使用者も含めて、生徒のほとんどが日本語ワープロを習得しているか、履修している。

 本校では日本語ワープロを情報処理教育の第1歩と位置づけ、ブラインドタッチの入力に重点を置いて指導を始めている。ソフトは現在「一太郎」を使っているが、パソコンに関する基本的な事項、視覚障害者用の補助機器についてもこの段階で指導している。順番通りに指導しているわけではないが、指導内容をあげると次のようになる。

  1. パソコンおよびワープロに関する基礎知識
    1. パソコンの機器構成についてに、
    2. ワープロソフトの種類・特徴について
    3. フロッピーディスク種類・特徴・取り扱いについて
    4. オペレーションシステムとアプリケーションソフトの関係について
  2. 起動・終了の確認について
  3. 文字の入力・訂正について
    1. キーボードの説明
    2. 入力方法の説明と入力方法の決定
    3. タイピングの基本練習(ブラインドドタッチ)
    4. 読み方の分からない文字の入力方法
    5. 文章の修正
  4. 文書の書式について
    1. 用紙の種類とサイズについて
    2. 文字数と行数について
    3. 標準設定の方法
  5. 文書の練習(「一太郎」メニュー画面の説明)
    1. 罫線の引き方と表作成
    2. センタリング
    3. 右寄せ
    4. タブ設定
    5. 均等割り付け
  6. ファイル管理について
    1. ファイルに関する基礎知識
    2. 文書登録
    3. 文書呼び出し
    4. ディスク初期化
    5. ファイルのバックアップ
    6. ファイルのコピー
  7. 印刷について
    1. プリンターの説明とシートフィーダについて
    2. 印刷スタイル設定と標準設定
    3. 操作手順と注意
  8. その他の機能(「一太郎」メニュー)について
    1. 単語登録・削除
    2. 短文登録・呼び出し・削除
    3. 外字作成・登録・削除
    4. 移動とコピー
    5. 検索・置換
    6. ウィンドー
    7. ペースト
    8. 文字の種類・文字飾り
    9. オプション
    10. その他のメニューについて

     視覚障害者が日本語ワープロを利用する場合、補助機器、ソフトを併用することが多いがその指導は不可欠である。点字使用者は音声を利用するが、ソフトは現在斉藤氏が開発した「VDM」を使用している。また、松山盲学校和田教諭の開発した「BRAILLE.SYS」を利用して、点字入力をしている者も多い。低視力弱視でディスプレイが見にくい人は拡大機器「PC-WIDE」を利用する者もいる。

  9. 「VDM」の説明と使用法について
    1. 各種音声装置のとソフトの関係
    2. VDMの基本的な使い方
    3. 場面に応じた特殊な使い方
    4. システムへの組み込み方
  10. BRAILLE.SYS」の説明と使用方法について
    1. 入力モードについて
    2. 6点以外のキーの役割について
    3. 特殊記号の入力について
    4. システムへの組み込み方
  11. CRT拡大装置(PC-WIDE)の説明と使用法について
    1. レイアウト(拡大画面への切り替え)方法
    2. 拡大倍率(文字の大きさ)の合わせ方
    3. 追従モードの設定方法とジョイスティクについて
    4. ウインドセンタの設定方法
    5. ウインド登録及びウインドの呼び出し方
    6. その他の機能について

3.基本ソフト(MS‐DOS)

 パソコンを有効に利用する場合、パソコンやオペレーションシステムについての基本的な知識が必要になってくる。基本ソフトの知識がないと自分のパソコン環境を作れないし、疑問に思っても、そういうものだと諦めて使い方を覚えるしかないし、こうしたいと思っても人に頼むしかない。特に、視覚障害者の場合は複数のソフトを同時に動かしている場合が多いので基本ソフトの知識は不可欠である。

 そこで、ワープロの技術を習得した生徒の中で希望者には基本ソフト(MS‐DOS)を指導している。ほとんどの高等部生徒は学校独自でおくその他の科目として「情報処理技術」を履修するので、このレベルは習得するようになった。しかし、一般の基本ソフトはWINDOWSに変わろうとしているので更なる知識が要求される。

 教科書としてアスキー社の「MS-DOS入門」を使い、ヴィデオテープなどの視聴覚教材を併用しながら、ファイルに関する指導と基本コマンドの説明し、コピーなどの実習を通し、システムディスクを作る。点字使用者の場合はコピーで音声システムを作り、後で説明している。このディスクにFEP、VZエディタなどのソフトを組み込んだり、CONFIG.SYSやAUTOEXEC.BATの書き換えを指導する中で、パソコンの仕組みを指導している。

 階層ディレクトリの指導、拡張メモリの説明の後、簡単にコピーなどができるDOS用ユーティリティソフト「FD」をつかって、ハードディスクのインストールや環境設定をして、自分の環境にあった自分専用のハードディスクを作る練習をしている。

4.アプリケーションソフト

 ワープロの技術を習得すると、点字使用者でも他人に代筆を依頼せずに自分の手で文書が作れるようになって、一つの目的は果たしたことになる。しかし、パソコンを利用していると色々なアプリケーションソフトの存在を知り、ワープロだけでは満足しなくなる。住所管理やカルテなどデータの管理とデータ処理がいとも簡単にできるからである。本校ではワープロの次の段階としてカード型データベース「忍者」を指導している。また、理療科の臨床研究などでは数値処理が必要になることもあり、「ロータス123」表計算ソフトも必要に応じて指導している。

 図形ソフトはマウス対応ソフトであるので、興味を抱いている一部の弱視者に「花子」を指導したことがある。その時は、「一太郎」に組み込んで文書として処理した。WINDOWSでは図形処理も簡単になるので今後は希望者には指導することになると思われる。

5.点字関係ソフト

 視覚障害者は大学卒業後、あるいは盲学校高等部専攻科を卒業後に企業に就職することも多く、その場合は文書作成は避けて通れず、ワープロをはじめ、情報処理技術習得がでてくるので、点字エディターや変換ソフトは是非備えるべきであるし、電子ブックドライバーも組み込んでおいた方がよい。その他、必要に応じてデータベースソフトや表計算ソフトなども組み込む。著作権のあるソフトは購入しなければならないが、フリーソフトにも非常によいものがあるのでそれを利用するのもよい。

 種々の機器、補助具、ソフトの中で、実際に使用して有効だと思われるものを中心に簡単なコメントを述べたい。特に、断わらない場合はPC98のパソコン用である。

  1. アプリケーション・ソフト
    • 「DMS」(フリー) ・・・ エディター「DM」(フリー・視覚障害者の吉泉さん開発)に点字入力ができるようにした「6点漢字」が使える点字ワープロである。
    • 「アドボイス」 ・・・ 住所管理ソフト。
    • 「テレワード」 ・・・ 通信ソフト。
    • 「デンピツ」 ・・・ MS-DOS上で6点漢字の使える点字ワープロ。
  2. 通常のアプリケーションソフト上で点字による入力を可能にするソフト
    • 「BRAILLE.SYS」(フリー) ・・・ 松山盲学校の和田先生が開発したデバイス型ソフトで、通常のアプリケーションソフト上で点字入力を可能にする。全てのFEPに対応している訳ではないが、点字を知っている人は入力が非常に楽であるので便利である。
  3. 点字エデイター(点訳ソフト)
    • 「BASE」(フリーソフトでDOS/V版もある。ただし、部機能制限がある。
    • 「こーたくん」
    • 「ブレイルスター」(視覚障害者の星加さん開発) ・・・ 視覚障害者の間では3種の神器とまで言われ、非常によく利用されている点字作成ソフトである。盲学校の点字製版を亜鉛板製版、ブレールマスター製版からパソコン製版に一変したソフトである。点字入力のほか、かな入力もでき、「BASE」は「TDC」と併せて他は単独で点字プリンタや一部の点字ディスプレイの制御もできる。
    • 「IBM-BE」 ・・・ IBMパソコンに対応する点字エディター。
  4. 各種の変換ソフト
    • 「TDC」(フリー) ・・・ 点字と仮名の相互変換、点字ファイルの変換、各種点字プリンタの制御と打ち出しができる。
    • 「80点」(フリー) ・・・ 日本語テキストファイルを仮名ファイルに変換する。
    • 「コントラ」(フリー) ・・・ 英文テキストファイルを2級点字に変換する
    • 「エクストラ」(視覚障害者の石川さん開発) ・・・ テキストファイル(日本語と英文が混じっていてもよい)を点字に変換し、各種点字プリンタも制御、打ち出すことができる。
    • 「カンタス」(フリー) ・・・ 仮名文書を漢字かな混じり文に変換できる
    • 「がってんだ」 ・・・ 日本語テキストファイルを仮名に変換。
  5. 画面拡大ソフト
    • 「ジョインズーム」 ・・・ ソフト的に画面を拡大できる常駐型ソフトである。。安価な年会費制で、色々なサービスも行っており、大型CRTや「PC-WIDE」のない視覚障害者には便利である。グラフィック画面には対応しないなどの制限がある。
  6. 音声化ソフト
    • 「VDM」(視覚障害者の斉藤さん開発) ・・・ 斉藤ソフトとも呼ばれる代表的な音声ソフトでMS-DOS用、BASIC用があり、対応機器もAOK、VSS300、VSU、しゃべりん坊、BRPCなどと幅広い。点字使用者にパソコン使用を可能にした点で画期的な功績があり、ソフトも非常に優秀である。その他、やまびこも利用されている。

6.プログラミング

 パソコンを理解する意味で高等部「数学」で基本的なBASICを指導している。しかし、パソコンを自由に使うためには必要なプログラムを自分で書き、動かすことであるが、そのためにはMS-DOS上で動くプログラムを作る必要がある。現在、専攻科の生徒2名に対して、ターボCによる指導を行っている。テキストは「C言語の基礎知識」ほかを使用している。

7.通信

 パソコン通信は、1986年ごろまでは、無料の試験期間であったが、1987年よりPC‐VANなどが有料化し、本格的なパソコン通信時代を迎えた。パソコン通信を行なうには、少なくとも、ワープロが使える程度のパソコンと文章についての知識が必要である。

 パソコン通信利用により、BBS(電子掲示版)を通じて種々の知識を得たり、不特定多数の人に質問を問いかけることができる。情報摂取にハンディキャップのある視覚障害者にとっては、真に有効なメディアである。

 本校においては、パソコン通信利用について、卒業を目前にした生徒に対し、体験としてパソコン通信を行なわせているが、時間と設備の関係で充分には行なえていないが、今後インターネットの回線が充実することでTELNET接続などで、パソコン通信の実際的な学習が可能になるであろう。

8.イメージスキャナ及び文字読み取り装置

 日本語の文字読み取りについては、まだ、読み取り精度が低く、読める図書の対象も限られている。また、そのためのイメージスキャナーなど、必要な機器は非常に高価である。英字については、カーズワイル社製のパーソナルリーダーがあり、英文なら実用的精度で読み取り、また、それを女声、男声、幼児声、老人声など10種類の声で読み分ける機能もある。

 しかし最近では「ヨメール」などのWINDOWS95で動作するOCRを土台とした視覚障害者用の読書ソフトが発売され,まだ操作などに問題点はあるものの墨字の本を音声で読むことはかなりやれる環境が整いつつある。

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2007/04/09