筑波大学附属視覚特別支援学校のWEB

盲学校における情報処理機器利用の意義

 日本のパソコンは本来の計算機としてよりもワープロやゲーム機として普及したと言われているが、最近はパソコンの利用法も大幅に広がり、多分野にわたるようになってきた。盲学校においても多種の利用法があるので、(1)組織としての学校、(2)個人としての教職員、(3)将来を生きていく児童生徒に分けてその意義を考えたい。

(1)組織としての盲学校

 今やどんな職場でもパソコンやワープロは事務処理には不可欠の機器となっており、盲学校においても同様である。校務事務では各種の資料作成にワープロやパソコンが利用され、資料作成が容易になり、読み易い資料が、豊富に配布されるようになっている。

 また、毎年繰り返す行事などについての資料は、前年のものに、変更すべき、年月日、時間、改正事項などを変更、追加するだけでよく、事務能率が格段に向上した。

 体育科や理科(物理)では独自のプログラムを組んで、実技結果や実験のデータ処理を行っているし、進路指導部や各種事務局では住所管理や独自のデータベースを作っている。

 盲学校固有のこととして、全盲生などに対する点字資料・触覚図形の提供、弱視生に対する視機能に応じた文字・図形などの提供の問題がある。

 点字使用者に対する点字資料の作成はパソコンによる点訳とパソコン制御の印刷が行なわれるようになった。パソコン点訳が行なわれる以前は、手書きで何部か同じものを打つか、足踏み式の亜鉛版印刷を行なわねばならなかったが、今では大半の教員が家庭にパソコンやノートパソコンを持っており、学校だけでなく、家庭でも点字資料や試験問題を作成している。従来の亜鉛版印刷は、入学試験や特殊な場合を除き、本校では行なわれなくなった。

 弱視生に対しては入学試験、期末試験、各種資料など、弱視者の視力に応じたものを配布しなければならないが、それもパソコンを利用することにより、受験生や生徒の視力に合わせた資料印刷ができるようになった。

 盲学校は視覚障害者のセンターとしての役割をもっているが、情報処理に関しても機器はもとより、その利用法、最新の情報などをサービスすることが必要である。学校の設備は過去貧弱であったが、情報処理に関わった教員の個人的な努力でその役割を果たしてきた。1995年度になり、通産省の「100校プロジェクト」に選ばれ、インターネットの機器が導入されたのをはじめ、概算要求によるパソコンセットが設備されたし、聖心女子大学同窓会「みこころ会」よりフル装備の視覚障害者用パソコンが4セットが寄贈されて、設備としても、ようやくセンターとしての第1歩を歩き始めた。これからは、在校生はもとより卒業生にも最新のサービスができるようになる。

 また、本校では、進路指導の一環として、受験を希望する大学や進学大学に対し、視覚障害者がパソコンを利用する意義と効用を具体的に説明し、パソコンがなかった時代に比較して勉学環境が格段に良くなり、他人に依存する割合が少なくなったことを強調している。あわせて、卒業生のパソコン購入の相談から購入後の機器、補助機器、ソフトの効果的な利用法の指導やハードディスクのインストールなどをサービスしている。

 盲学校においては普通学校で利用されているCAIの分野では視力との関係もあってあまり利用されていない。

(2)個人としての教職員

 盲学校の教員は、校務の事務処理などは一般学校の教員と同じであるが、教材や資料作成は点字と普通文字の両方を作る必要がある。従来は2種類を作っていたものが、パソコン利用によりどちらか一方を作れば変換ソフトで変換、編集することにより他方が作成できるようになり作業が軽減された。また、家庭において資料作りや点訳ができるなど学校を離れて作業ができるようになった。

 全盲の教員にとって、文書処理は他人に依頼しなければならない分野であった。それがパソコン利用により、可能になり、今では晴眼者と同等に扱えるようになった。また、教材研究も点字図書、録音図書、対面朗読などにより行なってきたが、現在は、ハードディスクによる国語辞典や英和辞典、CD‐ROMによる電子化図書類及び辞典、インターネットやパソコン通信で得る情報などが利用できるようになった。また、今後、OCR(文字読みとり装置)が普及すれば活字で書かれた文書や資料をも利用でき、教材研究の不自由さが解消される。

(3)児童・生徒

 視覚障害者がワープロをはじめ、情報処理機器に習熟することは、実務面だけではなく、精神的にも解放される。視覚障害者の場合は文字によるコミュニケーションの側面にハンディキャップがあり、晴眼者中心の今の社会では普通文字の読み書きができることが必須条件になっているので、高度情報化社会に晴眼者と共に一般社会で活躍するにはワープロをはじめ、情報処理技術を習得しなければならない。情報処理の技術は自信にもつながり、新しい情報機器に対する抵抗感も少なくなり、他の情報処理機器を使用する際にも極めて有益である。従って、情報処理技術を習得することは進学や就職の面でも可能性が大きく広がる。あわせて、視覚障害者の地位の向上にもつながると思われる。換言すると、リハビリテーションとしての情報処理教育だけでなく、職業前教育としても有効であると言える。

 情報化社会の要請の中で、視覚障害者の場合は機能障害があるために、補助機器を使ったり、専用のソフトを使用しなければならないが、その障害を克服するための補助機器やソフトも開発されてきたし、今後も開発、改善されるだろう。視覚障害者の場合は晴眼者の場合と違ってどの機種でも使えるわけではないので、個人の障害の程度にあった機種や補助機具等の選定が必要になり、障害の特性に応じた系統的な指導が必要である。ここに盲学校でワープロをはじめ、情報処理教育の必要性と意義がある。

 弱視者は普通文字(墨字)の世界で生活しているので、常に晴眼者と同じ水準が要求され苦労している。視力が弱いために文字を読むことが苦痛であったり、上手に書くことができなかったり、文字に対する抵抗が強いことが多い。従って弱視者、特に弱視特有の文字になる者にとって、ワープロは晴眼者と同じ文書を作ることがでるので、ワープロに対する期待は非常に大きい。ワープロを使えば晴眼者と全く同じものが書けるので「書く」という面でハンディキャップがなくなり、実務面で極めて有効である。ワープロを利用する最大のメリットと言うことができる。また、精神的にも重荷から解放される。しかし、逆にワープロが打てないと、晴眼者との差が益々広がり、進学でも就職でも不利になってしまうのは明らかである。企業への就職が決まると全盲者、弱視者を問わず、関係機関の協力も受けながら、ワープロや情報処理の指導をしている。

 点字使用者にとって、表意文字である漢字を使い、晴眼者と同じ漢字かな混じりの文章を読み書きできることは夢であった。点字ワープロや情報処理機器はそれを可能にした。手紙やレポートなどを代筆を頼まずに書くことができ、「書く」という面で救世主となった。

 また、ワープロで書かれた文章なら音声装置を通して読めるし、辞書や事典がCD-ROMユニットや電子ブックで音声として読めるようになってきた。通信を利用すれば新聞や資料を読むことができるし、OCRを利用すれば活字の文章も読むことが可能となってきた。絶対に不可能と思われた「読む」という側面でも画期的な変化が起こった。

 実際の利用は児童・生徒により異なるが、中学部以上の生徒は、生徒会や各種行事の資料作成、修学旅行のしおりや文化祭のプログラムなど自分達で作る資料はほぼワープロ作成の文書になっている。また、文書の点字版もパソコン点訳が多い。専攻科理学療法科の病院実習のレポートは今やワープロなしでは考えられないし、理療科の臨床研究発表ではデータベースや表計算ソフトなどを活用して分析し、原稿が書かれている。また、数は少ないが電子ブックによる辞書検索やOCR利用による英文の読書、通信による情報収集なども行っている生徒もいる。このように情報処理技術は視覚障害者にとっては文書作成以外でも生活の一部になってきている。

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2007/04/09