視覚から入ってくる情報が少ないので、読みたい・書きたいという気持ちが生じるように、日々の会話の中で興味・関心を引く話題を提供することも一つの方法です。「先生が話してくれたことが書いてある本を読みたい」となれば成功ですね。
また、触ることを嫌がらないように、日常生活の中で多くの物に触れて、肌理(きめ)や大きさ・形などのわずかな違いが触ってわかるようにしておくといいでしょう。お金の弁別や、おもちゃ(ままごとやパズル)を利用しての指の触察感覚を身に着けるとよいです。
点字学習に至る前に、指先で玩具などの具体物をつかんだり、引っ張ったり伸ばしたり、あるいは回したりひねったりして、手を操作機能として使う手指の巧緻性を高めておくとよいでしょう。その上で、直線や曲線を始点から終点までなぞり、なぞった長さや高さ、あるいは形のイメージを運動感覚、触覚、そして部分を時系列でつなげた全体で理解する認知機能として手指を動かせることが求められます。そのためには、粗大運動から微細運動までの活動を通して、肩・肘・腕・手指を自分の意図に沿って適切に動かし、両手を協応する様々な経験を積むとよいでしょう。また、6点で構成される一マスの触空間と連続するマス(行)を扱う上で、手指を横に滑らかに動かすなどの触運動の統制に加え、上下・左右・真ん中・斜めなどの位置・方向・順序に関する概念を理解しておくことも必要です。そして、何よりも、文字という記号を扱うことで、点字が事物や事象を表す象徴機能としての役割を果たしていることを理解する枠組みができているのか、発達における認知の段階を見極めることも大切になります。その上で、音によって単語等の分解・構成が可能であることを学習の中で位置づけていきます。例えば、リンゴという具体物があり、その名称が「リンゴ」と発音するだけでなく、文字(あるいはリンゴのシンボルでもよい)からリンゴそのものをイメージでき、さらに「リ」「ン」「ゴ」に、音と文字が分解・構成できることを理解できるかどうかといったところになります。
一方で、上記の条件は、レディネスとしてすべてを満たさないと点字学習ができないということではなく、学習をしながら触運動機能を高め、認知全体の向上を促していくという観点もあるでしょう。さらに、点字を文字として導入する前に、いくつかの点(う、に、ふ、れ、め)を、分類などの用途として、触ってわかる印の意味合いから用いることもできます。