筑波大学附属視覚特別支援学校のWEB

 このページでは、本校社会科で近年取り組んでいる事柄について紹介します。また、それらの取り組みについて詳しく書いた印刷刊行物のリストについても紹介します。

1.博物館との連携

 破片をつなぎ合わせて復元した、さまざまな本物の土器を触ってみる。重さが違う。土器の厚さも、質感も、土器につけられたさまざまな模様も、触りながら実感する。他の土器とは何が違うんだろう。なぜ違うんだろう。こんな体験を重ねて、歴史を身近なものにしたい。
 長年の私たちの夢が、近年の博物館の変化(ユニバーサル・ミュージアムへの志向)の中から実現しつつあります。すでに多くの博物館がさまざまに工夫して、触ってみたり、実際に着てみたり、体験する場を提供しています。また、博物館が教材を貸し出したり、学芸員が出張授業をしたりする試みも増えてきています。
 本校では、2019年度には國學院大學博物館のご協力をいただき、縄文土器や弥生土器、埴輪などを触りながら、古代の世界への想像力を広げられるような校外授業を行いました。「お話」だけではなく、本物や模型を実際に触ってみることで、各時代の社会や文化について具体的なイメージを膨らますことができるような授業づくりに積極的に取り組んでいます。

國學院大學博物館1 國學院大學博物館2

國學院大學博物館での体験学習

2.「手で触ってわかる教材」や「視聴覚教材」を活用した教育

 博物館などとの連携に加えて、日常的な教育においても、やはり触って理解することは大切です。普段の授業においても、「手でみる教材」を持ち込むことで、視覚に障害のある生徒が生き生きと学べるように工夫を凝らしています。例えば世界史では、各国の偉人や有名人の像や、城や有名な建築物の模型などを触りながら、授業を進めます。

 
さまざまな世界の「顔」(胸像) たくさんの世界遺産の模型
さまざまな世界の「顔」(知ってる人はいるかな?)引き出しから模型を取り出し、「世界遺産の旅」を準備する

また、視覚に障害のある生徒にとっても、テレビや動画は身近な存在です。映像がよく見えなくとも、音声や音楽などから番組の雰囲気を読みとり、日常生活の一部として親しんでいます。そんな身近なところから社会への興味・関心が広がるように、テレビのドキュメンタリー番組やドラマ、映画などを素材として「視聴覚教材」を作成し、授業でも活用しています。

3.フィールドワーク

 視覚に障害のある児童・生徒にとって、無意識に街のさまざまな情報を入手することは困難です。そのため、教室で教師の話を聞いて知識として完結するのではなく、意図的に外に出かけ、実際の様子を見聞きしながら具体的に社会の様子や問題を発見し、考えることが極めて重要です。そのため、社会科では授業の内外で、さまざまなフィールドワークを重視し、実践しています。
 授業内では、主に地理・公民の授業を中心に、学校近隣の街歩きからスタートし、実際に聞き取り調査も実施しながら、「見聞きする」能力を高めます。
 特に高等部1年での必修科目「現代社会」では、様々な資料調査・インタビュー・アンケートなどを組み合わせた社会調査法を学び、自分に関心のあるテーマについて調査・発表を行う実践する授業を十数年続けています。
 授業外でも、修学旅行や夏季学校をはじめとする、全体で取り組む校外行事の中で、積極的に「実際に歩いてわかる/触ってわかる」体験を紹介しています。
 これらの体験は、全体を通じて、その場で「歩いて/触って」終わるのではなく、生徒自身が事前に十分下調べした上で体験し、事後にわかったことや感じたことを論述する、という一連の流れが必要です。それらも、フィールドワーク指導の一環として重視し、普段の授業から積極的に取り組んでいます。

4.表・グラフ・図等を活用と課題

 視覚に障害のある児童・生徒が主体的に学習し、客観的なデータに基づき、分析的に思考していく力を養うには、適切な工夫を加えた表・グラフ・図等が必要となります。また、そ れらを活用し、読みこなしていく力を育てるには、適切な手順による段階的な指導が求められます。
 本校では、点字教科書、拡大文字教科書の編修に協力する中で、視覚に障害のある児童・生徒が読みやすい表・グラフ・図等の開発を志向しています。普段の授業でも、表・グラフ・図等の読み取りに十分時間を取り、生徒が自ら読み取り、思考し、発表していくことに力を入れています。複雑な表・グラフ・図等であっても、単純化、言葉による説明の付加等を行うことで、理解が可能になります。
 一方で、近年は複数の表・グラフ・図を比較しながら思考する力を必要とする試験も増えています。視覚に障害がある場合、全体像を一覧できず、読み取りにも時間ががかかるため、短時間で点数を争う場合には適切な配慮が必要になります。

5.地図・地球儀の活用

 一般の地図や地球儀は一覧して大量の情報を把握させるような視覚を前提としたデザインとなっており、視覚に障害のある児童・生徒に理解しやすいものではありません。視覚に頼らずに理解するためには、触察に適した手がかりや情報を加えると同時に、掲載する情報を精選し、少ない情報を確実に理解できるような地図や地球儀が必要となります。
 また、それらの地図や地球儀を実際にどう使うか、という指導法も併せて検討されなければ、十分な触察・観察の力をつけることはできません。
 そのため、地図や地球儀は授業や指導の目的に応じて適切に準備し、実際の指導に役立てる必要があります。
 本校では地球儀に関して、「大陸を取り外すことができ、大陸の形を大きさを理解する」のに有効なもの、「地形の起伏がはっきりわかるもの」「国境線が触ってわかるようになっているもの」などを用意して、指導に役立てています。
 また地図帳に関して、本校社会科は後述の「日本視覚障害社会科教育研究会」の一員として、下記の教材開発をすすめ、どちらも出版されています。

6.「日本視覚障害社会科教育研究会」について

 2007年にスタートしたこの研究会は、視覚障害教育における社会科に関する研究を行い、あわせて会員相互の連絡をはかることを目的としています。
 年に一度全国規模の研究協議会を開催する他、教材開発、資料収集、情報提供等をおこなっています。これまでに、東京・埼玉・愛知・沖縄・岐阜・北海道・広島・新潟・静岡等で研究協議会をおこなってきました。また、点字地図・弱視児向け地図・視覚障害児向け地球儀等の開発についてはプロジェクトとして取り組んできています。点字地図については、2008年に、弱視用地図については2019年に、研究会の成果として出版しました。

 【点字版地図帳】
  『点字版基本地図帳 -世界と日本のいまを知る-』
    日本視覚障害社会科教育研究会(監修)、視覚障害者支援総合センター(発行)
    全4巻 (2008年2月発行) ※【点字のみ】
 【拡大版地図帳】
  『みんなの地図帳 ~見やすい、使いやすい~』(2019年2月発行)
    編集:日本視覚障害社会科教育研究会  発行:帝国書院 

 
点字地図帳の写真 拡大版地図帳の写真
点字地図帳の写真拡大版地図帳の写真

  

 事務局は本校の社会科が担当していますので、関心のある方はご連絡ください。

7.参考文献・参考資料

 1.博物館や外部機関との連携
  ・博学連携のために -互いの専門性を活かして生徒の学びにつながる実践を-
    (『視覚障害教育ブックレット』26号,p.6-13,2014年10月)
  ・国会における視覚障害者の見学の受け入れについて-参議院の取り組み-
    (『視覚障害教育ブックレット』28号,p.14-19,2015年6月)

 2.触ってわかる教材・視聴覚教材を活用した教育
  ・盲学校の教室から世界を「見る」 -世界史の授業を中心に-
    (『視覚障害教育ブックレット』2号,p.30-35,2006年8月)
  ・パソコンを活用した視聴覚教育の試み-世界史の授業を中心にⅡ-
    (『視覚障害教育ブックレット』6号,p.42-47,2008年1月)
  ・視覚障がい者と触察 -「知る世界」から「わかる世界」へ。想像からの脱却 をめざして- 
    ※盛岡市「視覚障がい者のための手で見る博物館」について
    (『視覚障害教育ブックレット』22号,p.6-19,2013年7月) 

 3.フィールドワーク(教科授業や修学旅行、学校行事等での指導)
  ・多様な調査活動と表現力の育成を重視した「現代社会」の授業-視覚特別支援学校(盲学校)での実践を例として-
    (井田仁康ほか編著『中等社会科21世紀型の授業実践-中学校・高等学校への授業改善への提言-』学事出版刊,p.188-195,2015年3月) 
  ・2015年度中学部3年修学旅行「岩手の旅」報告  ―社会科との連携を図った修学旅行の実践―
    (『筑波大学附属視覚特別支援学校 研究紀要』48巻,p.11-17,2016年7月)
  ・探究心と社会性を育成する修学旅行の実践 -2018年度高等部2年の取り組み-
    (『筑波大学附属視覚特別支援学校 研究紀要』51巻,p.3-18,2019年7月)

 4.表・グラフを用いた学習
  ・盲学校中学部社会科点字教科書編集における工夫
    (『視覚障害教育ブックレット』3号,p.28-34,2006年12月)
  ・点字教科書を図解してみよう(その1)―中学校社会「歴史」を例に―
    (『視覚障害教育ブックレット』37号,p.16-21,2018年7月)
  ・点字教科書を図解してみよう(その2)―中学校社会「歴史」を例に―
    (『視覚障害教育ブックレット』38号,p.22-27,2018年12月)

 5.地図・地球儀の活用
  ・点字版『基本地図帳』の編集と特徴
    (『視覚障害教育ブックレット』8号,p.46-53,2008年9月)
  ・拡大版基本地図(世界・日本)の開発
    (『視覚障害教育ブックレット』36号,p.16-21,2018年2月)
  ・視覚障害のある児童生徒への地球儀を用いた地理学習.
    (『視覚障害教育ブックレット』4号,p.48-53,2007年9月)

2020/06/04