このページでは筑波大学附属視覚特別支援学校長より、このWebをご覧になった方へご挨拶申し上げます。
校長室から
あふれる二人羽織 ~視覚障害教育の基本~
この日の給食は、秋の味覚・秋刀魚の一本付け。栄養教諭 金居先生によれば、近年は高級魚となりつつありますが、それでも子供たちに「魚を食べる体験」をしてほしいという思いから、毎年提供しているそうです。
幼稚部や小学部低学年では、給食前の時間に生の秋刀魚を観察しながら、魚の体のつくりを確かめます。お箸の使い方、骨の取り方――魚を食べることには少し難しさもありますが、「本物にふれる」体験を通して、食への関心と感謝の心を育てています。
検食の際、金居先生とそんな話をしていると、いつものように子供たちが食堂に入ってきました。
すると、いつもと少し違う光景が目に入りました。配膳を終えると、先生方が次々と子供たちの後ろに立ち、二人羽織のように手を添えていました。先生が子供と同じ向きで立ち、手と手を合わせながら動きを導いています。
視覚情報に頼らず、身体の感覚を通して動きを伝える――まさにこの教育の原点を感じる場面でした。
「見て! 長い骨が一本とれた!」
そんなうれしそうな声があちらこちらから聞こえてきました。先生の手を感じながら、子供たちは自分の手で魚の身と骨をほぐし、味わい、発見を重ねていました。とれた骨を「おうちの人に見せたい」と持ち帰った子もいるそうです。
みんなで声をそろえて「いただきます」。食後には「ごちそうさまでした」。
改めて、旬の食材に感謝し、人と人とが寄り添いながら食べる。そこには、命をいただくことの尊さ、そして共に学び合うあたたかさが満ちていました。
あふれるような二人羽織の光景に、改めて「ここは視覚障害教育の場なのだ」と胸が熱くなりました。
子供と共に感じ、共に動き、共に学ぶ――そんな本校の日常が、今日も静かに息づいています。
令和7年10月29日 筑波大学附属視覚特別支援学校 校長 森田 浩司

