筑波大学附属視覚特別支援学校のWEB

 このページでは筑波大学附属視覚特別支援学校長より、このWebをご覧になった方へご挨拶申し上げます。


校長室から

音楽に込めた想い ―音楽科3年生の挑戦

 9月中旬、音楽科の3年生、井上奏人さんが、演奏研究授業の公開試験を受けました。演奏曲はブラームス作曲の2台のピアノのための作品。演奏の前には、自ら、主題と変奏とで構成されている作品であることを紹介して、聴きどころや楽しみ方について解説してくれました。その様子からは緊張も伝わってきましたが、聴く人に寄り添う丁寧な説明に、彼の音楽に対する真摯な姿勢を感じました。

 やがてピアノに向き合うと、その目つきがふっと変わったのがわかりました。曲に想いを込める瞬間だったのでしょう。約15分間にわたる演奏は、音楽科の永山先生と2台のピアノを並べての演奏という、本校ならではの特別な試験形式で行われました。師弟の呼吸が重なり合うような響きに、会場は引き込まれていきました。

 演奏終了後、井上さんから練習の仕方について伺うことができました。
 弱視であるため、普段は拡大読書器を使って情報を得ていますが、楽譜についてはA3サイズに拡大コピーし、スケッチブックに貼って使用しているそうです。それをピアノの楽譜立てに置き、演奏前に手元で確認して記憶し、暗譜で演奏しているとのことでした。楽譜を見ながら演奏できない分、人一倍の練習を重ねてきたことが推察できます。

 私自身も音楽が好きです。音楽は頭で考えるよりも、聴くだけで直感的に心を揺さぶり、感動を与えてくれる——そのことを改めて肌で感じる機会となりました。そして、その特質こそが魅力であることを実感することができました。
特にピアノ2台での演奏は、二人の呼吸が重なり合い、その場に居合わせた人だけが味わえる魅力を放っていました。
井上さんは「ミスもたくさんあった」と振り返っていましたが、私にとっては大変素晴らしい空間であり、心に残るひとときとなりました。
学びの場がこのような豊かな表現の場となり、聴く人の心を揺さぶる瞬間に立ち会えることを、校長として大変誇らしく感じました。


令和7年9月25日 筑波大学附属視覚特別支援学校 校長 森田 浩司

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2025/9/25