このページでは筑波大学附属視覚特別支援学校長より、このWebをご覧になった方へご挨拶申し上げます。
校長室から
自立へつながるキャンパス体験~「支援を受ける側」から「支援を活かす側」へ~
7月中旬頃、高等部2年生16名が筑波大学で「キャンパス体験」を行いました。この行事は、視覚に障害がある高校生が、大学という環境を知り、大学での生活の仕方や学び方を体験し、自らの進路を選択するための第一歩となるように、本校から筑波大学に依頼し、ヒューマンエンパワーメント推進局や人間学群障害科学類等のご協力を得ながら実施しているものです。この体験が核となり、その後の様々な大学のオープンキャンパス参加の基準となるように、事前に大学側の担当者と本校の進路指導担当等が十分な打合せをした上で実施しています
当日は、模擬講義の受講や大学構内の散策、中央図書館の見学など、内容は盛りだくさん。中でも、生徒たちが関心を寄せていたのは、障害のある学生への支援体制でした。
講義では事前に資料が配布されるなど、合理的配慮が施されていましたが、講義が始まると、一方的な説明が続く大学らしいスタイルに。提示されたスライドが事前資料にない場合もありましたが、生徒たちの多くは、視覚補助具を使って情報を補おうとしたり、ノートテイクしたりする姿はあまり見られませんでした。
実はこの様子から、普段の授業の中で「支援を受けることに慣れている」という一面が垣間見えたように感じました。もちろん普段の授業において、ノートテイクの時間を確保したり、その際に視覚補助具を使用したりするなどの配慮や支援は大切ですが、大学という新しい環境では、「自ら情報を取りに行く姿勢」がより一層求められます。
体験後の振り返りでは、生徒たち自身がそのことに気づいた様子が印象的でした。「事前に支援を受けていたとしても、単眼鏡などの支援機器をつかったり、教授の説明で補ったりと」もっと自分から動かないと、必要な情報が得られないとわかったといった言葉が聞かれ、自分の学び方や将来への意識に少しずつ変化が生まれていることを感じました。
また、中央図書館の見学では、蔵書の多さや施設の規模に圧倒されつつも、「どうやって必要な本までたどりつくか」「情報を得るために工夫が必要だ」といった、情報アクセスに関する課題も生徒の言葉から浮かび上がってきました。
こうした活動は、単なる進路体験にとどまるものではありません。生徒たちは、自ら必要な支援を理解し活用する力、初めての環境を認識し適応していく力、そして他者との関わりを通して自己を見つめ、表現する力といった、自立活動の内容の項目となっている学びを、体験を通じて実感していたように思います。そして、こうした体験を通じて、生徒たちは、進学や就職といった将来の進路だけでなく、「どのように学ぶか」「どう社会とつながるか」という視点を少しずつ育んでいます。
私たち大人も、支援の手を差し伸べるだけでなく、彼らが自立的に歩んでいく力を育てるサポートを、これからも大切にしていきたいと思います。
令和7年8月5日 筑波大学附属視覚特別支援学校 校長 森田 浩司