このページでは筑波大学附属視覚特別支援学校長より、このWebをご覧になった方へご挨拶申し上げます。
校長室から
足元の自然に耳をすませて~飯盛山登山に代わる自然観察から~
7月中旬、長野県野辺山にある文京区立八ヶ岳高原学園にて行われた、中学部の「夏季学校」に参加する機会を得ました。
本校中学部において夏季学校は、代々引き継がれてきた大切な伝統行事であり、生徒たちにとって特別な学びと成長の機会です。
今年の夏季学校では、中学部全生徒32名で飯盛山への登山・トレッキングを予定していましたが、前日の台風の影響による線状降水帯の発生により、安全を最優先に考え、やむなく中止といたしました。
しかし明けた朝には、天候が回復し、午前中には晴れ間ものぞく穏やかな空に。計画では前日に予定していた、理科の教員を中心とした自然の家のそばの林での自然観察を実施しました。予定していた登山・トレッキングとはまた異なる形で、生徒たちは自然とじっくり向き合うひとときを過ごしました。
林の中では、セミや鳥の鳴き声、風にそよぐ葉の音など、耳を澄ますことで感じられる自然の“音”があふれていました。白樺の木が立ち並ぶ様子から、この地が比較的涼しい気候帯であることも実感できました。
また、前夜の雨の影響もあり、セミの抜け殻や羽化したばかりの成虫が葉の裏や幹にじっとしている様子も見られました。生徒たちは、抜け殻をそっと指でつまんだり、葉を這うセミを手のひらにのせたりして、その感触や動きに触れていました。
とりわけ印象的だったのは、全盲の生徒が、這うセミを指先にのせ、その動きをじっと味わうように丁寧に触れていた姿です。多くの生徒が、躊躇することなくセミに触れていたことにも驚かされました。それは、日頃から「触れることで学ぶ」という経験がしっかりと根づいている証であり、本校ならではの学びの力を感じる瞬間でもありました。
生徒たちは自然観察だけでなく、室内ではレクリエーション活動なども行い、班長を中心に、各係の役割を担いながら協力して活動に取り組んでいました。こうした姿からは、宿泊生活を通して育まれる責任感や仲間意識の芽生えが感じられました。
視覚に障害があっても、自然の中での活動をあきらめる必要はありません。むしろ、声と声をつなぎ、仲間と支え合いながら挑戦することそのものが、かけがえのない学びになるのだと、夏季学校を通してあらためて感じました。
今回の活動が実現できたのは、柔軟に対応いただいている文京区立八ヶ岳高原学園の職員の皆さま、そして何より、豊かで包容力のある八ヶ岳の自然があったからこそです。心より感謝申し上げます。
令和7年7月25日 筑波大学附属視覚特別支援学校 校長 森田 浩司