筑波大学附属視覚特別支援学校のWEB

 このページでは筑波大学附属視覚特別支援学校長より、このWebをご覧になった方へご挨拶申し上げます。


6月の校長室から

 校内の廊下を歩いていると、教室から盲学校ならではの音が聞こえてきます。
 それは、点字盤を使って点字用紙にメモを取る「ポツポツ、ポツポツ」という心地よい音、「ガチャガチャ、ガチャガチャ、チーン」というパーキンスタイプライターが奏でるリズムのよい音です。耳を澄ませていると、自信たっぷりの早い音もあれば、慎重さを感じさせるゆっくりとした音もあります。時々音が止まるのは、児童生徒がじっくり考え中のため、手がとまっているのでしょう。ここでは「点字音」と命名しますが、子供たちの学習や心の様子をもイメージさせてくれる、この点字音が私は好きです。盲学校教員になりたてのころ、先輩の先生が点字音を聞けば、点字が間違っているか否かが分かるって話してくれたことを鮮明に覚えています。当時は半信半疑でしたが、これ本当です。
 さて、環境省が「残したい“日本の音風景100選”」を定めています。これは、人々の地域のシンボルとして大切にし、将来に残していきたいと願っている音の聞こえる環境として認定されたものだそうです。生き物の音、自然現象の音、生活文化の音など音源も多様です。皆さんの出身地からは、どんな音風景が選ばれているのか確かめてみてください。ここまで読んでくださって思いませんか? 点字音だって将来に残していきたい音だと。いま、全国的に点字を使って学ぶ子どもたちの数が減ってきています。本校は点字生が多く在籍していますが、点字教科書を使って学ぶ児童生徒がほとんどいない盲学校が出てきています。教師が、実際の指導を通じて、点字指導に関する専門性を高めていくことが難しくなってきているのです。この背景には医療の進歩、視覚支援機器の性能向上、音声で学ぶ機会の拡充などが背景にあると考えられます。これは否定されるべきものではありません。しかし、点字で学ぶ児童生徒がいないから、点字を教えられなくても大丈夫なんてことがあってはならいわけです。点字音どころか盲学校そのものを将来に残せなくなってしまう。たとえ教室から点字音が聞こえなくなったとしても、職員室からは聞こえてくるようにしたいものです。
 これは夢かもしれませんが、環境省にならって、文部科学省が「残したい“学校の音風景100選”」を企画してくれたら、「盲学校の教室から聞こえる点字音」を100選の中にいれてきましょう。その時は、御協力をお願いします。
 さて、点字音を聞きにいっていきます。

 「ポツポツ、ポツポツ」、「ガチャガチャ、ガチャガチャ、チーン」。

令和5年6月1日
筑波大学附属視覚特別支援学校
校長 青木 隆一

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2023/6/2