筑波大学附属視覚特別支援学校のWEB

 このページでは、本校社会科で近年取り組んでいる事柄について紹介します。また、それらの取り組みについて詳しく書いた印刷刊行物のリストについても紹介します。

1.博物館との連携

 <破片をつなぎ合わせて復元した、本物の縄文土器を持って触ってみる。重さが違う。土器の厚さも、質感も、縄目の模様だけではない豪華な模様も、時代を実感する。こんな体験を重ねて、歴史を身近なものにしたい。>
 長年の私たちの夢が、近年の博物館の変化(ユニバーサル・ミュージアムへの志向)の中から実現しつつあります。すでに多くの博物館がさまざまに工夫して、触ってみたり、実際に着てみたり、体験する場を提供しています。また、博物館が教材を貸し出したり、学芸員が出張授業をしたりする試みも増えてきています。
本校では、2007年度から、埼玉県立歴史と民俗の博物館との連携により、1学期には打製・磨製の石器各種と縄文・弥生・土師器・須恵器を、3学期には甲冑一式と太刀をお借りして、歴史の授業に活用しています。「お話」だけでわかった気になるのではなく、本物、あるいは本物に限りなく近い模型を実際に触ってみることで、具体的なイメージを膨らますこののできる授業が少しずつ実現しています。

歴史の授業で弥生土器を触っている生徒博物館で甲冑を着せてもらっている生徒

2.視聴覚教材を活用した教育

 視覚に障害のある生徒にとっても、テレビはとても身近な存在です。たとえ画面が見えなくとも、生徒は音声や音楽などのさまざまな音から番組の雰囲気を読みとり、日常生活の一部として親しんでいます。そのような身近なところから社会に興味・関心をもってもらうという意図もあり、社会科では、テレビのドキュメンタリー番組や映画等を素材として視聴覚教材を作成し、授業で使用しています。
 書いたものを読むだけではなく、実際の人の声や音を聞くことで、その時代の様子や人々の考え方がリアルに生徒たちに伝わります。字幕や情景など生徒が自力で受け取ることのできない情報は教員がプリントや言葉による説明で補っています。

3.フィールドワーク

 視覚に障害のある児童・生徒の場合、無意識に街のさまざまな情報を入手することは困難です。したがって、教師の話を聞いて知識として完結するのではなく、意図的に外に出かけ、実際の様子を見聞きしながら具体的に考えることが極めて重要です。そのため、社会科では授業の内外で、さまざまなフィールドワークを重視し、実践しています。
 授業内では、学校近隣の町歩きからスタートし、実際に聞き取り調査も実施しながら、「見聞きする」能力を高めます。授業外でも、修学旅行や夏季学校をはじめとする、全体で取り組む校外行事の中で、積極的に実際に「歩いてわかる/触ってわかる」体験を取り入れています。
 これらの体験は、その場で「歩いて/触って」終わるのではなく、生徒自身が事前に十分下調べした上で体験し、事後にわかったことや感じたことを論述する、という一連の流れが必要です。それらも、フィールドワーク指導の一環として重視し、普段の授業から積極的に取り組んでいます。

4.表・グラフ・地図を用いた学習

 視覚に障害のある児童・生徒が主体的に学習し、客観的なデータに基づき、分析的に思考していくためには、適切な表・グラフ・地図などが必要となります。また、それらを活用し、読みこなしていく力が求められます。
 本校では、盲学校社会科点字教科書、拡大文字教科書の編修に協力する中で、読みやすい表・グラフ・地図などの開発を志向しています。また、図表の読み取りに十分時間を取り、生徒が自ら読み取り、思考し、発表していくことに力を入れています。

5.地球儀の活用

 通常の地球儀には、触察に適した手がかりや情報が十分備わっていません。そのため、視覚障害児の学習においては、目的に応じた適切な地球儀を利用することが必要となります。
 本校では、日本製2種、イギリス製1種、ドイツ製1種、合計4種類の地球儀を利用し、学年や指導内容に合わせて適切なものを選択し、授業で活用しています。
 イギリス製は大陸を取り外すことができ、大陸の形を大きさを理解するのに役立ちます。ドイツ製は触って地形の起伏がはっきりわかるように作られており、地形に関わる学習をする時に活用しています。日本製は国境線が触ってわかるようになっているので、国の位置を特定するような学習に適しています。

6.基本地図作成の取り組み

本校社会科では、視覚障害児の地理学習に適した基本的な地図の必要性から、日本視覚障害社会科教育研究会と協力し、点字の地図帳を開発しました。
 以下、その地図帳の詳細です。

 書名 『基本地図帳-世界と日本のいまを知る』
 巻数 全4巻(世界地図1巻、日本地図1巻、統計資料2巻)
 サイズ 地図…B4変型、統計編…B5変型
 発行 2008(平成20)年3月
原本 (株)二宮書店編集部 著『基本地図帳 改訂版 世界と日本のいまを知る』2007年版(二宮書店発行、1524円)

 内容(『基本地図帳』チラシより)
   世界35枚、日本20枚で完全網羅
   国・首都と自然をわけ、見やすく整理
   最新調査に基づく世界と日本の豊富な統計資料
 編集・発行 (社福)視覚障害者支援総合センター
 監修 日本視覚障害社会科教育研究会
 編集協力 柏倉 秀克(桜花学園大学准教授)
   青松 利明(筑波大学附属視覚特別支援学校教諭)
   岩崎 洋二(筑波大学附属視覚特別支援学校教諭)
   佐藤 信行(筑波大学附属視覚特別支援学校教諭)
   黒田 智成(東京都立八王子盲学校教諭)
   丹治 達義(筑波大学附属視覚特別支援学校教諭)
 問合せ先 社会福祉法人 視覚障害者支援総合センター
      〒167-0043 杉並区上荻2-37-10 Keiビル
      電話 03-5310-5051
      FAX 03-5310-5053

7.参考文献・参考資料

(1)「視覚障害教育ブックレット」
(本校視覚障害教育ブックレット編集委員会編集:ジアース教育新社発行)から

第1号(2006年 3月刊行)
・視覚障害教育における社会科.p.34~37.
・「街をあるく」ことの楽しさ①-通学路からわかること-(コラム).p.84.

第2号(2006年 8月刊行) ・盲学校の教室から世界を「見る」-世界史の授業を中心に-.p.30~35.
・「街をあるく」ことの楽しさ②-足もとには何がある?-(コラム).p.79.

第3号(2006年12月刊行)
・盲学校中学部社会科点字教科書編集における工夫.p.28~34.
・「街をあるく」ことの楽しさ③-学校行事でどう活かす?-(コラム).p.35.

第4号(2007年 4月刊行)
・視覚障害のある児童生徒への地球儀を用いた地理学習.p.48~53.

第5号(2007年 9月刊行)
・視覚障害者の歴史をどのように教えているか(1).p.48~53.
・教室から2「まっすぐに!」(コラム).p.39.

第6号(2008年 1月刊行)
・パソコンを活用した視聴覚教育の試み-世界史の授業を中心にⅡ-.p.42~p.47

(2)筑波大学附属盲学校研究紀要(2001年度・第33巻)より
・2001年度筑波大学附属盲学校高等部2年修学旅行(沖縄)の報告.p.35~48.
・資料・全点協運動.p.48~

8.日本視覚障害社会科教育研究会について

 2007年にスタートしたこの研究会は、視覚障害教育における社会科に関する研究を行い、
あわせて会員相互の連絡をはかることを目的としています。
 年に一度全国規模の研究協議会を開催する他、教材の開発、機関誌の発行、資料の収集・交換等を
おこなう予定にしています。
 事務局は本校の社会科が担当していますので、関心のある方はご連絡ください。
 2008年度の研究協議会は、8月1日(金)の午後と2日(土)に、愛知県名古屋市で開催予定です。

2008/03/05