このページでは筑波大学附属視覚特別支援学校長より、このWebをご覧になった方へご挨拶申し上げます。
校長室から
理学療法士国家試験における合理的配慮について ~視覚障害のある受験生のために~
7月に入り、厚生労働省 医政局医事課 試験担当者の方にお目にかかり、視覚障害のある受験生に対する「理学療法士国家試験における合理的配慮」について、改めて上申の機会をいただきました。
特に、「試験問題の文字フォントを明朝体からゴシック体へ変更していただきたい」という、これまで毎年要望している内容についても、あらためて強くお願い申し上げました。
視覚障害のある受験生にとって、明朝体のような線が細い部分がある文字は読みづらく、読み間違いや過度な集中による疲労の要因となります。これに対し、ゴシック体は線が太く均一なので視認性に優れており、受験における公平性の観点からも重要です。
しかしながら、担当者からは、「フォント変更にかかる予算が確保されておらず、『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』(いわゆる障害者差別解消法)における“過重な負担”に該当する」との説明がありました。
また、今後はCBT(Computer Based Testing)への移行を視野に入れており、印刷仕様の変更には予算措置を講じる予定はないとの回答もありました。
校長室で打ち合わせし、同行した、本校職員からは「毎年上申しているにもかかわらず、実質的に検討がなされていなかったのか」と、落胆の声もありました。
さらに、試験問題の拡大対応についても、単に倍率で拡大する方式(単純拡大)であり、受験生の読みやすさを考慮したレイアウトの検討などは、厚生労働省内では特に行われていないことも確認されました。拡大は印刷業者の裁量によるものであり、制度的な改善には至っていないのが現状です。
一方で、当日の試験運営に関しては、「会場での誘導、個別の試験室の確保、視覚補助具の使用許可など、年々きめ細やかな合理的配慮が講じられている」ことなどに対して、深く感謝申し上げました。試験会場における柔軟なご対応は、受験生の不安を和らげ、試験に集中できる環境を整えていただいております。
ただし、私たちは改めて実感したことがあります。それは、「試験問題そのものへの配慮」は、当日の対応とは異なり、「問題の作成段階から配慮しておくべきものである」ということです。合理的配慮とは、受験生が本来の力を十分に発揮できるよう環境を整えることであり、そのためには、各視覚特別支援学校が蓄積してきたノウハウや配慮の背景を丁寧に伝え、理解を広げていく努力が欠かせません。
なお、CBT化に向けた今後の試験制度の見直しにあたり、「本校の教職員も検討会に参画する機会をいただける」とのお話もありました。これは、実際の教育現場の視点を制度に反映していくための第一歩として、大いに期待される動きです。
視覚に障害のある方々が、能力を正当に評価され、自信をもって社会に羽ばたいていけるよう、私たちは引き続き現場から声を届け、共により良い環境づくりに努めてまいります。
令和7年7月7日 筑波大学附属視覚特別支援学校 校長 森田 浩司
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