筑波大学附属視覚特別支援学校のWEB

Q4 学校生活の中で困ることは何ですか?

【入学時・新学期】
 環境が変わる入学時や、進級してクラスメイトが新しくなる新学期は、周囲から弱視の見えにくさが理解されにくい時期です。弱視の子が教科書に目を近づけて見る姿勢や、ルーペや単眼鏡を使う様子をからかわれたことから、補助具を使わなくなったり、見えにくさを隠したりして、学校生活がうまくいかなくなるケースもあります。自己紹介の機会などを利用して、本人からまたは担任から見えにくさがあることを周囲にどう伝えるのがよいか、事前に打ち合わせしておくことが大切です。
 学校生活全体を通して、安全に過ごすことができるよう、教室内や廊下は走らないなど特に衝突防止の注意喚起や、みんなで使うものの置く位置を勝手に移動させないなど生活上の決まりを守るように促すことも大切です。

【歩行(通学・校内の移動)】
 行動に見えにくさの影響が少ない場合でも、慣れない場所の移動では注意が必要です。 新しい通学路については、道路の横断や信号の判断で危険なことがないかを見極め、安全が確保できない場合には指導が必要となります。また、交通機関を使って通学する場合は、電車やバスに応じた利用の仕方を確認し、安全なルートで常に同じ場所で乗り降りするようにします。
 学校内では、段差がわからずにつまずいたり、転落したりすることがありますので、段鼻に色のコントラストをつけるなどの配慮があるとよいでしょう。わかっているつもりの場所でも、少しの暗さによっても見えにくくなることがありますので、一定の明るさは確保できるようにしておきます。

【授業】
 見えにくさゆえに、体育、技術・家庭科、図工・美術などの実技、理科の実験や観察、算数・数学の図形や作図、社会科の地図の読み取りなどで困ることがあります。以下に小学部における体育と理科の例を紹介します。

1.体育
 見えにくさゆえに困難な種目の一つとして球技があります。宙を飛んでくるボールの発見が遅れて捕球できなかったり、身体にボールが当たることを怖がったりすることがあります。特に、ボールが目に衝突すると視力低下につながりかねないので、怪我や事故には注意が必要です。
 一緒に参加することが難しい内容の場合、「見学」という形をとるのではなく、可能な範囲で参加できるよう工夫したり、弱視でも取り組みやすい種目に変更したりすることが考えられます。
 例えば、野球と似たスポーツで「ティーボール」があります。バッティングティーという細長い台にボールを置き、止まっているボールをバットで打ちます。空中を飛んでくるボールを打つのではなく、静止しているボールを打つので、見えにくい児童生徒でも取り組みやすい種目といえます。ボールが当たっても痛くないようにウレタン製やスポンジのボールに変更することも考えられます。

2.理科
 見えにくいことから、体験的な学習が不足することがあり学習対象のイメージを形成することが難しい場合があります。これを補うために教材の活用があります。身近なもので、観察がしやすい基本的、標準的なものを精選して、学習を積み重ねることにより、見えにくさがあっても学習内容を理解することができます。以下の例を示します。
 魚の学習は、通常メダカなどを扱うことが多いのですが、ある程度の大きさがあり形がわかりやすいアジやサバなどを用意します。魚の基本形がアジなので見えにくい子供も標準的な魚の形を理解することができます。学校での実現が難しい場合は、家庭と連携してその時期に、アジやサバを利用したメニューを用意して、調理前に触る活動を組み入れると体験の蓄積がなされ学習が構造化されます。
 花の学習では、タンポポ、さくら、アブラナなどは雄しべ、雌しべ、花びらが小さくて見えにくいので、ユリやチューリップなど大きめの花を利用することでそれぞれの部分をしっかり見たり触ったりすることができます。
 太陽系の学習は、教科書の図は縮尺を調整していることが多いので、体験が十分にない場合はイメージがつきにくいことがあります。そこで、直径が140cmの円形ダンボールと直径が1.3cmくらいのビー玉を用意して、太陽と地球を比較すると大きさの違いを理解しやすくなります。
 以上の内容は一例ですが、弱視児の教材は体験がしやすいように、形が基本的・標準的なもので身近にあるものを用意することが肝要です。弱視児への教材準備は、色のコントラストを優先することがありますが、イメージを作りやすく印象に強く残る要素も入れるとよいでしょう。

3.表などの読み取り
 表のように項目に対して数字などが並んでいるものを読み取ろうとする際、どの行をたどっているのかわからなくなることがあります。見やすい表をつくる工夫としては、シンプルな構造で項目をわかりやすくすることや、罫線を見やすくする、1行ごとに色を変えることなどが考えられます。
 すでにある表を読み取る際の工夫としては、読み取ろうとする行がずれないように、定規などを当ててその上をたどることが挙げられます。これは注目すべき場所を明確にするという点で、表だけでなく、文章を読む際にも行飛ばしが見られる場合には有効だと考えられます。

ルーペと定規を併用して表を読み取る様子 読みたい行に定規を当てて数値を読む

【休み時間】
 みんなが自由に動く休み時間は、弱視の子にとってはとても状況がわかりにくい時間です。また、教員が入りにくい時間帯でもあります。このようなみんながばらばらに自由に動く状況のわかりにくさをクラスで共有し、お互いに声を掛け合い、自らもコミュニケーションを取っていけるようにすることが大切です。また、ボール遊びや鬼ごっこのように広く走り回るような遊びは、同じように参加することが難しいため、みんなと一緒に楽しめるように方法やルールを工夫してみるとよいでしょう。

【クラブ・委員会】
 クラブ活動や委員会活動などの課外活動では、見えにくいために実際の活動がみんなと一緒にやりにくいものもあります。本人の希望と活動のしやすさを考慮し、場合によっては優先的に選択できるように配慮します。
 課外活動では普段一緒に過ごしていないクラスメイト以外の様々な人たちと、一緒に活動することがあります。必要に応じて、弱視の見えにくさを共有できるように、準備をしておくと安心です。

【校外学習や学校行事】
 弱視の児童生徒が、校外学習や宿泊を伴う学校行事などでの活動においても、本人とどのような時に困るのかを相談し、また周りのどのような配慮が必要なのかを考えていきます。例えばハイキングや山登りなどでは、足元の悪い場所、急な坂道や段差、暗い場所やまぶしい場所においては、必要に応じて手引きで移動や、まぶしい場所や急に暗くなる場所を避けて通行するなどの配慮ができると良いです。また、宿泊を伴う行事においては、宿泊先で全体オリエンテーションの実施や、緊急時に弱視児童生徒が一人でも避難できるように、非常階段などの避難経路に近い部屋の確保、一人で避難が難しい場合には、教職員がすぐにかけつけて、手引きで避難できるようにするなどの配慮が必要になります。周りの子どもたちや教職員で協力して、情報共有していきながら、本人の希望に沿った必要な配慮をしていけることで、弱視の児童生徒が安心して校外学習や学校行事に参加できるようになります。

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