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視覚障害教育センター構想について


筑波大学附属盲学校 将来計画委員会センター構想小委員会(注1)
代表 教諭 岩崎 洋二(いわさきようじ)



1 はじめに


 附属盲学校の将来計画について,私たちは,1997(平成9)年7月の全日盲研(奈良大会)において発表した。その内容は,附属盲学校を,理療科・理学療法科の4年制大学と,一般校に在籍する視覚障害幼児・児童・生徒に対する支援を行う視覚障害教育センターの二つの方向へ発展させるというものであった。本稿は,この視覚障害教育センター構想の現状について報告する。


2 視覚障害教育センターの構想


 視覚障害教育センターは,一般の保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校および養護学校などに在籍する視覚障害幼児・児童・生徒に対して,教育相談を行い,必要とするケースに対しては支援サービスを行う。支援サービスは,点字・歩行・触図・触察,弱視の場合のレンズ等補装具,生活訓練,情報処理機器などの指導になるが,精神的なフォロー,障害者同士の交流などが重要である。そのため通級指導および巡回教員の配置などが必要である。

 附属盲学校では,理療科・理学療法科を除く,幼稚部・小学部・中学部・高等部本科(普通科・音楽科)・専攻科音楽科・寄宿舎の部分が,附属盲学校の現在地において,今後とも視覚障害教育を実践的に継承する場として盲学校の形を存続させながら,その盲学校がセンターとしての役割を果たしていく中でセンターに発展していくのである。

 基本構想では,盲学校が生徒の少人数化・重複化だけではなく,点字に習熟した教員がいなくなってきているなど視覚障害教育の場としての将来が危ぶまれているとする一方で,一般校に在籍する視覚障害幼児・児童・生徒に対し視覚障害教育の保障が充分に,また適切な形で行われていないことを指摘した。そこで,各都道府県にできる地域センターとの連携・情報サービスを行うとともに,地域センターの教職員及び統合教育・弱視教育などに携わる教員の研修の場とすることを大きな任務としている。

 また,一般大学に在籍する学生,企業などに就職した視覚障害者に対し必要に応じて支援サービスを行うとしている。附属盲学校は,一般大学進学とその後の就職の支援も積み重ねているが,この出口におけるノーマライゼーションの実践はこの構想の特徴である。そしてこの実績が,統合教育など一般校への発言力の裏付けになっている。

 基本構想以後,コンピュータの問題が大きく位置づけられてきた。一般大学進学・就職などにおいて,視覚障害者にとってのパソコンの利用は視覚障害者の世界を広げる有効な武器になっている。センターにおいては,センターのコンピュータ化・ネットワーク化はもとより,視覚障害補償機器としての評価,情報提供,教育訓練などの必要が大きくなっている。


3 附属盲学校の将来計画(センター構想)の経過


 将来計画委員会は1985(昭和60)年に発足した。その背景として,ひとつは,東京教育大学の筑波移転問題と国の教育行政改革のなかで文部省・筑波大学から国立附属としての存在意義を問われ,スクラップ化の危機があったこと,もう一つは,筑波大学が筑波身体障害者短期大学(現筑波技術短期大学)をつくる過程で,附属盲学校としては,理療科・理学療法科への影響だけでなく,普通科・音楽科の一般大学進学までも否認する計画であったためその構想に反対したことで,その対応の中からも将来計画が必要になっていたことである。

 この将来計画の動きは,途中経過をいち早く1988(昭和63)年の関視研大会で発表し,そこで,将来計画として「普通学級・学校に在籍する生徒への積極的な援助を行うセンター的役割を果たしていく」ことを報告し、議論を求めた。しかし残念ながら,当時はこの提起に対してはほとんど反応がない状態だった。

 その後,1993(平成5)年には中間報告をまとめ,1996年3月「視覚障害教育センターの基本構想」として教官会議で決定した。そして,理療科・理学療法科の4年制大学化の構想と併せて,同年7月8日付小冊子にまとめたのである。私たちはこの決定について,同年と翌1997年の関視研で正式に報告し,同年全日盲研の発表になったのである。

 その後,私たちは1998(平成10)年9月には,日本特殊教育学会においてシンポジウム「これからの視覚障害を考える」で統合教育に関係してきた人たちと議論を交わした。一方,筑波大学は「筑波大学附属学校の在り方の検討」をすすめ,その一環として障害教育4校(注2)は1998年11月27日付『心身障害児(者)の教育の視点からみた筑波大学附属4校の在り方について』をまとめた。ここに附属盲学校の将来計画も正式に載り,今年は,このまとめに基づき,どのように具体化するかを検討する障害教育4校連絡協議会が開かれている。


4 附属盲学校の現状とすでに果たしているセンター的役割


 附属盲学校は,1880(明治13)年盲児の教育に着手して以来,長い歴史的伝統を持つ国立唯一の盲学校としての役割を担ってきた。現在生徒数は199名,寄宿舎生108名である。内部は,幼稚部,小学部,中学部,高等部本科(普通科・音楽科),専攻科(理療科・理学療法科・音楽科・理療科研修課程),寄宿舎に分かれ,教員数101名である。

ア 幼稚部

 1988(昭和63)年度から3歳児の保育が認められ,年少組(3・4歳)・年長組(5歳)の保育を行っている。1985年より,同校幼稚部に通学しながら地域の保育園・幼稚園に通園す る幼児が増え,今年度は10名中8名が地域の保育園・幼稚園へ通園し,週に1〜3日同校に通学している。保育園・幼稚園へは訪問指導を行い,保育参観や指導者との話し合いの中で視覚障害幼児の特性・保育での配慮点・健常児との関わりの工夫等について,相談助言を行っている。


 また,1998年からは0〜3歳の乳児と保護者を対象に定期的に一堂に会して学んでいく相談活動・育 児学級を行っている。育児学級は,教員と保護者が一緒に育児について考え,視覚障害に関する情 報を提供し,保護者同士が交流できる場となっている。

イ 小学部

 小学部の将来計画は,児童の少人数化と障害の多様化・重度化が進む中で,(1)単一障害児の募集範囲の拡大,(2)発達遅滞を伴う重複障害児教育の着手,(3)視覚障害児教育のセンター的機能の確立の三つの柱を方針とした。その結果,1988年小学部に本校幼稚部卒業の重複児を受け入れ,1992(平成4)年度からは盲学級6,弱視学級2,重複学級2クラスに改組した。

 通級指導などのセンター的役割については,最初の通級指導が,新宿区の小学校に在籍する弱視児で,保護者の強い希望により1985(昭和60)年から始まった。全盲児については,1986年度に同校幼稚部在籍児が新宿区の普通小学校に入学が認められた際に,教育委員会より援助協力があったのがきっかけとなり,通級指導や視覚障害児の指導に関する相談などを行うようになった。15年間の積み上げの結果,通級指導の数は増え続け,昨年は15名,今年は13名となっている。

 通級時における指導の内容は,在籍校の学級担任や保護者あるいは児童本人からの希望等を勘案してケースごとに決めているが,一般的な指導内容としては次のようなものがあげられる。全盲児に対しては,点字初期指導,点字版,珠算,作図,歩行,触知覚訓練,理科実験器具の操作法,点字ワープロなどの指導。弱視児に対しては,弱視レンズ等の補装具の処方と指導,作図,辞書・地図等の活用法や漢字の指導,実験・観察等の指導を行っている。

 これらの通級児の在籍校は,東京都内および近県の小学校,養護学校であり,本校への通級に際しては,在籍校あるいは教育委員会と事前の協議を経てから実施しており,在籍校からは通級依頼書を提出してもらっている。 また,1997年度から通級児の在籍校を訪問し,授業の様子を参観したり,教科や生活指導の相談にのったり,CCTVの設置場所や活用法,教材作成についてアドバイスしたりするなどの訪問指導を行っている。

ウ 中高普通科

 中学部・高等部ともに教育相談などのセンター的役割は増大しているが,ここでは中高普通科の取り組みとして一般大学進学に話をしぼっておくことにする。

 高等部の普通科は,1968(昭和43)年から本格的な普通科教育を行い,1980(昭和55)年には学級増が認められ2学級20名定員の時代が続いた。1996年度からは16名定員となったが,実施したのは今年度からである。生徒の全盲弱視の比率を見ると,全盲の比率が高いのが特徴で,弱視も低視力の者が多くなっている。

 高等部志願者の志願理由をきくと,友達が大勢いるからということと,一般大学に進学して理療以外に就職したいというのが大変多い。実際の進路を見ると,学年によって大きな違いがあるが,高等部普通科全卒業生543名のうち265名が大学に進学している。約48%である。最近では,一般大学への進学者60%,理療・理学療法科34%,その他職業訓練・専門学校など8%である。

 大学は,国立・公立・私立を問わず全国様々な大学の様々な学部・学科に進学していて,かっては全盲生を受け入れなかった地理学科・日本史学科・国文学科・心理学科,さらには物理学科・化学科などへも進学するものが出ている。特に附属盲学校の特徴である全盲の理数系進学者は,すでに大学を卒業し,さらに民間企業などに就職しているものもいる。

 附属盲学校では、大学受験について,高等部進路指導部を中心にして次のことを行ってきた。


  1. 大学入試に関する情報収集
  2. 面接を含む進路相談(他の盲学校の出身生徒,一般校在籍の視覚障害をもつ生徒の相談が増えている。)
  3. 模擬テストの実施・予備校との折衝
  4. 大学との受 験交渉・協議 ( 進路指導部の最大の仕事になっている。門戸開放のためだけでなく入学後の就学を円滑にするためにも協議すべきことが多い。)
  5. 入試点訳( 全国高等学校長協会入試点訳事業 部が1991年度入試から活動を始めていて,ほぼ全国的に点訳作業を請け負う形に成りつつある。点訳についての判断は盲学校の教員でなければできないことが多い。)
  6. 合格後のフォロー( 大学の受け入れ態勢,障害補償機器の体制整備など大学側と協議する。)
  7. 入学後のフォロー( 大学と本人に任せておいて解決できないことがある。)
  8. 就職相談(視覚障害に関しては盲学校が専門機関として関わらなければらないことが多い。)

 視覚障害者の大学進学の援助については,全国盲学校長会大学進学対策委員会,全国盲学校普通教育連絡協議会などや,さらに様々なボランティア・グループなどが取り組んできた。そうした中で,全国高等学校長協会入試点訳事業部が窓口を附属盲学校・京都府立盲学校・愛知県立名古屋盲学校に置き,全国的に活動してきたことで入試点訳体制が整い,大学受験がスムースに行われるようになった。なお,入試点訳事業部は,高校受験点訳なども行い,合格した生徒のその後の援助も依頼に応じて行っている。統合教育の生徒・保護者・担任などが進路相談などのために来校する数も増加しているが,入試点訳事業部の活動が拍車をかけたと言えよう。中高普通科は,こうした活動と密接に連携し,大学入試に関するセンターの役割を事実上果たしてきている。

オ 音楽科(高等部本科・専攻科)

 高等部本科(定員複式で10名)と専攻科2年(定員各8名)の課程があり,今年度は本科8名,専攻科7名が在籍している。生徒の専攻は,近年はピアノ専攻が多いが,声楽,箏曲,金管楽器のほかフルート,サクソフォン,バイオリン,ハーモニカなどの楽器を専攻するものもいる。

 この10年ほどの進路は,音楽大学・音楽短期大学に進学する生徒が本科・専攻科卒業生のそれぞれ半数弱である。こうした生徒の受験に際しては,普通科と同様,受験交渉に始まり,妥当な出題方法の検討,問題の点訳など大学側との充分な打ち合わせが必要である。特に点訳に当たっては,音楽と点字楽譜両方の知識に精通していることが必要なので,音楽科教員の関わりは欠かせられない。今後は,入試ボランティアの養成や点訳ルールの整理も含め,楽譜点訳についての情報センターを構想していく。また,本科・専攻科ともに音楽以外の専門学校に進学する生徒が若干見られる。専攻科卒業生の1割ほどが就職しているが,音楽関係は難しく,音楽療法などの新しい進路の開拓も課題となっている。専攻科音楽科は1997年度より年令制限を撤廃し,音楽を通じた生涯教育の場としての役割を担おうとしている。





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